以前、クルミド出版から出ている本「草原からの手紙」を読んだのですが、その内容の素晴らしさもさることながら、細部にまでこだわって作られた装丁がとても美しく、他の商業本とは異なった存在感を放っていました。このクルミド出版社が実はカフェであると知り、クルミドコーヒーにも実際行ってみたのですが、その何ともいえない温かい空間は、これまた他の商業カフェとは異なる存在感が際立っていました。そして先日このカフェのオーナーである影山知明さんとコルク代表の佐渡島庸平さんの対談を拝読して、この影山氏は一体何なんだろう?!と。ただの出版社でもなく、ただのカフェでもなく、一体彼は、それらを媒体にして何をしようとしているのか、とても興味を持ちました。彼の本「ゆっくり、いそげ」が数年前に出版されていたので、今回手に取ってみました。
なーんと、東大の法学部出身で、以前はベンチャーキャピタルの創業に参画していたという影山さん。そもそもカフェなんてするつもりなかった!そうですが、今では、カフェをするために生まれて来たのでは、と感じるまでになったそうです。それくらい、この地域に根ざしたカフェ運営という仕事が持つ、大きな可能性に情熱を持っているのが文章から感じられます。引用されている思想や文章からは、ビジネスの上だけではなく、1人の人間として彼が人生で大切にしていることが強く垣間みれます。
「あなたは大切な人なのですよ」と、カフェに来た1人1人に、サービスを通して伝えゆくこと。毎日ひとつひとつ、丁寧に仕事を繰り返し行ってゆく事の大切さを、様々な角度から書かれていました。個人的にハっとしたのは、下記のこの文章でした。
“つまり経済的な活動は、関係性を壊すものだと考えていた。本当はそれは、経済のありようの問題だったのだ。互いが互いを利用し合う交換の集積は、関係性を破壊する。それは、肥料や農薬を過剰投入した農業が土壌を破壊するように。
一方、互いが互いを支援し合う交換集積は、関係性を育てる。“
お金も、ケーキも、コーヒーも、カフェも、物質はすべて媒体であるという事。利害を出発とした、互いに「利用したり」「利用されたりする」関係性ではなく、「支援し合う」関係性へと私たちを誘う影山さん。影山さんは、「コンテンツ」を提供しているのではなく「時間」を提供している、と自身の仕事について語られていました。その「時間」を通して、豊かな関係性が、ゆるやかに、そして自然に、まるで樹が育つように、クルミドコーヒーから広がってゆくことを、望まれていました。
1人1人の差異を楽しみ、他者を大切にし、多様性を受け入れること。小さなローカルカフェの豊かで美しい夢は、私の胸をじんわりと温かくしてくれました。