時間やカレンダーや地図が世界中で共有され、移動や通信手段が発達して、地球上の私たちの物理的な「距離」は、以前よりも縮まったのかもしれません。英語を共通言語のように使い、未だかつて無い程世界中の人々の交流が活発になった現代だからこそ、浮かび上がって来る私たちの間にある「似ているもの」と「相違」。
本書の翻訳者である前田まゆみさんはあとがきに、こんなふうに書いていました。
”原書のタイトルは「LOST IN TRANSLATION」、「翻訳できない」は、厳密にいうと「りんご=apple」のように1語対1語で英語に翻訳できない、という意味です。”
「英語に翻訳できる言葉が無い」色んな国の言葉に内包されている意味が、シンプルで親しみやすいイラストと共に紹介されている本書。個人的に好きだったのは、「宇宙的なスケールで、時が過ぎていくこと」という意味のサンスクリット語「KALPAカルパ」、「森の中で一人、自然と交流するときのゆったりとした孤独感」という意味のドイツ語「WALDEINSAMKEITヴァルトアインザームカイト」、「バナナを食べるときの所要時間」という意味のマレー語「PISAN ZAPRAピサンザプラ」。他にも、可愛らしい表現や、面白い表現が紹介されていて、「そんな状況や感情に名前を与えるんだ!」と、その言語が持つ文化や、その言葉を使って暮らす人々の生活を想像すると、なんだか心がホッコリしてしまいます。
ふと思い出したのは、美術家の奈良美智さんの発言でした。
言葉の壁ではなく生活習慣や文化の差異がコミュニケーションを難しくしている。と、ドイツ語が全く話せなかった留学初期に感じたことを思い出している。通訳がいても伝わらないことはあるんだよな〜。
— yoshitomo nara (@michinara3) 2018年3月22日
実は日本語もいくつか紹介されているのですが、日本語を母国語としない作者の感性で書かれているので、確かに私が持っているニュアンスとはちょっと異なっているようにも感じられました。そう考えてみると、他の紹介されている言葉たちも、きっと厳密には母国語のニュアンスとは、ちょっと異なっているのかもしれません。でも、それこそが楽しい「相違」、そしてまさに「LOST IN TRANSLATION 」!いつかそれぞれの言語を母国語に持つ人たちと出会ったら、彼らの感想やそれぞれの言葉の意味についても是非聞いてみたい!そんな風に感じました。
「世界は広い」と感じるとともに、言葉の奥にある私たち1人1人が内包している原始的な「何か」にも触れることができる1冊です。