宮崎駿監督がアニメージュに「ナウシカ」を連載し始めた頃に描いたとされる、書き下ろし作品「シュナの旅」。水彩で丁寧に描かれた美しいオールカラーの絵物語が、ポケットサイズ文庫版になっている、という大変贅沢な内容となっています。
チベット民話「犬になった王子」が元になっているという本作。作物が育たない貧しい国の王子シュナは、国と民のため、土地を豊穣にかえるといわれる「金色の種」を求めて旅に出る‥。地味な題材が故にアニメ化ができず、監督なりに「映像化」したのが本作だそうです。一見すると漫画や絵本のフォーマットをとっているようにも見えるのですが、読んでみると、監督の頭の中にはっきりと見えているであろう映像が自分の中にも流れてきて、読後感はまるで一本のアニメーション映画を観たような、不思議な感覚になってしまいました。
初版はなんと1983年。しかし描かれているテーマは決して古くさくなく、むしろ時間が経った今だからこそ、より人ごとではない内容になっているようにも感じられます。この物語に出て来る「月」や「巨人」の描写には、特に鮮烈な印象をうけました。恐らく、遠くないいつかに、この作品もアニメーション化されるのではないでしょうか。若かりし宮崎駿監督のほとばしる情熱と才能に触れられる、大変貴重な1冊です。