本当に、久しぶりに小説を読みました。私にとって平野 啓一郎さんの作品は今回が初めてです。以前、この作品がnoteで連載中の頃、よくコルクのツイターから流れて来ていたことで知ったのですが、その時イラストを担当されていた石井正信さんの絵が毎回とても印象的でした。
当時さくっと読んだ際、イラストのイメージも手伝ってか、そこにあった文章の難解さと湿度が私には少し重たく感じられてしまい、リアルタイムで連載を追いかけることができなかったのを覚えています。
その後書籍化されて暫く経った頃に、ふと立ち寄った本屋さんでこの本を見かけたのですが、その美しい装丁にうっとりしてしまいました。このありそうでなかった、2色使いのシンプルかつ大胆で洗練されたデザインに強く強く心惹かれ、思わず本をレジに持って行ってしまいました。後で知ったのですが、連載当時イラストを描いていた石井正信さんがブックデザインも手がけられたとのこと。これまた彼が持つ表現力の奥行きの深さに感動してしまいました。
本書を読み終わった私の感想としては、まず、「こんな綺麗な物語、読んだことがありません〜!」でした(笑)note で読んだ際に感じた、あの、じとっとした湿度や重さは、印刷された本からは感じられず。つくづく、レイアウトや媒体、フォントや縦横書き、デザインなどなどが、読み手へ与える影響の大きさを考えずにはいられませんでした。デザイナーの石井正信さんもそこを理解して敢えて、デジタル配信時と書籍化の際、別々のアプローチで制作されている様子をインタビューで語られていました。
とにかく、文章も話の内容も装丁もとても美しい本です。私にとっては、映画「君の名は。」や「ララランド」と同じように、私たちの中にある「ステレオタイプ」や「現実に対する思い込み」「諦め」のようなストッパーを外して、「望めば君もこんな風に美しく生きる事は可能なんだよ」という作者の強い、意図を感じました。
そして装丁の2色の色から、メインキャラクターの二人の距離感を、絶妙に表しているように感じました。同化したり色が混じり合うわけではなく、異なる人生を歩んで来た自立した二人が惹かれ合い、そのままの状態で、そっと重なる様子が、美しい(笑)
多くの人が、どこかで、経験しているかもしれない「何も起きていない」けれど、確かに「起きている」こと。無かった事にしてしまうくらい、とても繊細なこと。ただ「出会ったこと」それ事態が持つ大きなインパクト。そして人が惹かれ合うのに必要なものは、いったい何なのか。繊細な、眼には見えない、人の心の内側で起きている動き。本書の登場人物達の様に、こんなに大量の思考や感情があふれている人達も、もしかしたらそう多くないのかもしれませんが(笑)それでも、彼らの内側で起こっている出来事は、多くの人達の中に眠る「何事か」を呼び覚ましてくれるには充分すぎる程美しく、人生を豊かに彩ってくれる美しい絵の具の様な、そんな本だと感じました。
他の人もレビューで書いていましたが、手元に置いて何度も読みたくなる美しい本だと思いました。