印象的なブックデザインに惹かれて手にとった1冊「地球星人」。作者は「コンビニ人間」で芥川賞を受賞した村田沙耶香さん。
冒頭からすぐに、自らを「魔法少女」だと名乗る主人公の奈月と、「僕は宇宙人」だと言う彼女のいとこで恋人の由宇の一見突拍子もない設定からスタートするこの物語。村田さんの小説が今回初めてな私は、子どもたちによるマジカルでスピったお話かしら??と疑問符を頭に浮かべながら読み進めていったのですが、いつの間にやら物語はただならぬ雰囲気を醸し出しはじめ、「魔法」も「宇宙人」も生き辛さのシンボルであることに気づかされます。
本書の帯にあった「衝撃のラスト!」「過去10年で一番驚愕した小説」のキャッチフレーズに煽られるように、「こんな結末かなぁ〜??」と勝手に色々と想像しながら読んでいたのですが、私が想像していた結末は、物語の中盤にあっさりと描かれてしまいました。想像を遥かに超えた世界が描かれていたラストでは、私の頭が「ドッカン!!」と爆破されるような衝撃でした。
英語で疎外感を「alienation」と言いますし、世界や他者、内的な自分自身と馴染めずに分離している自分のことを「地球外生命体(エイリアン)」と感じる現象は、私たちが持っている「生き抜くため」「自分を守るため」の、複雑で自然な心の術なのかもしれません。誰も、現実と想像の世界のボーダーを明確に区切ることができないように、私たちの社会でなんとなく共有されている「”正常”と”異常”のライン」も「”被害者”と”加害者”のライン」も、いかに曖昧であるのか、ということを読んでいて改めてひしひしと痛感させられました。
地球レベルでは決して”解決しない” 物語が、キャラクターたちの心を癒している点も圧巻です。ラストは衝撃で、読者によって意見も好みも分かれると思いますが、個人的には、読後感は不思議と清々しささえ感じるほどでした。
「一体、”問題”はどこにあり、そして”責任”はどこにあるのか?」。私たちの存在に対する大きな疑問符が、物語全体から静かに浮かび上がってくるようでした。
”小説を書き始めたばかりの頃は、苦しい人が読んで救われる物語を書きたい、と思っていました。でも私自身、救われない物語に救われたことが何度もあって、逆に安易に救われていく物語に絶望したこともあって、だから書けなかったのかもしれないです。
奈月には、人間の世界での幸せを与えることはできず、人間を脱ぐ喜びしか、味あわせてあげられなかった。でも一般的な尺度では破滅的かもしれませんが、たぶん奈月にとっては、これがハッピーエンドです。 ”
村田 沙耶香
地球星人 – 村田 沙耶香
▶ 「”問題”は自分の外側にあるのではなく、内側にあるのだ」と認識するに至る遥か以前に、「傷つき麻痺していた自分の感覚や正直な感情を掘り起こして認識する」という心の段階がどうしても生きていくうえで必要であったということを、本書を読んで改めて思い出しました
コンビニ人間 – 村田 沙耶香
▶有名な1作。次はこちらを読んでみたいと思います